比較言語学とは?(3)応用編2
今回は、前回書きそびれてしまった、(2)既にある程度運用されている方、のための人工言語の通時的な奥行きの出し方を考えていきたいと思います。
既にある程度運用している人工言語からそれよりも古い時代の言語の設定を派生させる場合は、少し比較言語学(歴史言語学)のテクニックを使うとそれっぽく仕上げやすいです。以下ではそのやり方の一例を少し提案してみます。と言っても、前回提案したやり方の逆をやるだけです。
音韻編
・語の末尾に音を追加する(ただし、やるなら全ての二音節以上の語でやらねばなりません。なので語末に活用語尾がくるような祖語を作る場合以外は難易度が高くなります)
例: asaから*asap、aratから*arati
・音素を分裂させる(安易ですがかなり有効です)
例: hを*xと*hに、aを*əと*aと*āに
・母音間の子音を強化(Fortition)する(有声音を無声音に、摩擦音を閉鎖音になど。これもそれなりに有効です)。
・子音連続の間に母音を入れる(CCCなど複雑な子音連続を許すタイプの言語からだとやりやすいです)
例: aktaから*akuta
・似たような母音の連続をウムラウトの結果ということにする(帳尻合わせがそれなりに難しいです)
例: kepiから*kapi
・長母音+単子音の構造を単母音+複子音に変えてみる
例: āpaから*ahpa
・母音間にsやhを入れてみる(母音間にsやhがある言語だと少し追加で帳尻合わせを考えなければなりませんが、有効です)
例: leaから*lehaあるいは*lesa
形態編
・格を増やす(王道だと思います)
例: 与格を与格(目的の到達まで示す)と方向格(到達は含意せず方向だけ)に分ける
例: 場所格語尾-esから、*esto-n「手の中で(古い場所格語尾*-nという設定を生やす)」
次に、祖語を作った際に出来てしまった元の言語にない特徴を保存している娘言語(変種)を作ります。例えば、aktaから*akutaを作った場合、この*-u-の痕跡を何らかの形で残している変種を作ると、比較言語学の手法で実際に祖語を再建することができるようになります。
前回も少し触れたように、一つの言語からそのより古い形を再建する内的再建という手法もあるのですが(なお、内的再建で再建した言語はProto-languageではなくPre-languageと言います)、これは難易度が上がるうえに信用度もやや低く、さらにどうしても再建できる範囲に限界があるのであまりお勧めしません。印欧祖語の喉音理論を生んだ由緒正しい手法の一つではあるんですけど、新しい段階から古い段階を再建するのは比較言語学そのものですので、古い段階から新しい段階を作るよりもはるかにしんどいと思います。比較言語学マニアの方は是非内的再建もやってみてください。喉音理論に限らずソシュールが滅法得意としていた手法なのでソシュール気分が味わえるんじゃないでしょうか(?)
今回はここまでです。ここまで読んでくださった方がいらっしゃったなら感謝します。お疲れ様でした。次回の内容は未定です。アクセントが現状では第一候補でしょうか。